日本でスタートアップがブロックチェーンを事業にするのはきわめて難しいという説

要約

ブロックチェーンのサービスをやるスタートアップを作ろうとしているけど、法律とか規制的になかなか難しいよね、という話。

筆者について

ブロックチェーンで何か面白いサービスができないかと考えているエンジニア。python、React、solidityあたりを書いている。 本題を取り上げる前に、ブロックチェーンをサービスにするというのがどういうことか、整理する。

暗号通貨あってのブロックチェーンである

「仮想通貨はバブルだが、ブロックチェーン技術は本物」という主張があるが、それには反対である。というのは、ブロックチェーンはルールに基づいて、誰でもブロックチェーンを使ったり、貢献したりできる。ビットコインの場合は使う(送金する)ときは手数料がかかり、トランザクションの検証や新しいブロックの採掘に協力したマイナーは報酬としてBTCを手にできる。 分散型のネットワークが巧みなインセンティブ設計によって協調することを可能にしたのがブロックチェーンということになる。 ブロックチェーンをデータベースとして見た場合、保存効率やレイテンシ、一貫性などの点で普通のRDBMSや分散型データベースのほうが圧倒的に使い勝手が良い。台帳とかスマートコントラクトという言葉に惑わされて普通の帳簿システムとか文書類を載せようとしても徒労に終わるだろう。

ブロックチェーンの革新はプロトコル開発をマネタイズできるようになった点にある

プロトコルとは実アプリケーションの下に位置する、共通の規格のこと。例えばウェブにおいてはTCP/IPやHTTPがプロトコル(括りが大きいけど)、その上に表現されてるFacebookとかAmazonみたいなWebサービスはアプリケーションということになる。 いままでインターネットの歴史はアプリケーションを開発してデータを独占することが収益化の方法だった。プロトコルを策定して実装することは、一部のギークが無償で奉仕したり、巨大化したインターネット企業がスポンサーとなって財団を立ち上げることによって成り立っており、プロトコル開発そのものをマネタイズする方法はなかった。 ブロックチェーンにおいては初期開発者がトークンを作り、プロトコル上でそのトークンが意味を持つように設計することでトークン価値が上昇し、開発者が大金を手にすることができる。イーサリアムがその例であり、イーサリアム上では債券のプロトコルや融資のプロトコルなどが生まれていっている。

ICOは確かに問題が多いが、トークンを発行してほしい人が買うこと自体に問題はない

ICOはERCトークンを多少いじってデプロイしてしまえば誰でも簡単にできるので、詐欺が多いのが実情。またよくわからず大言壮語している開発者も多いだろうから、結果的にホワイトペーパーに書いたことが実現できないことも十分起こりうる。 しかし全くの嘘でお金を集めているなら、それはICOという前に詐欺罪にあたるはずだし、ICOの健全性を検証するようなサイトも増えてきている。

制度・規制の問題点

1. 仮想通貨交換業の適用範囲が広いこと

仮想通貨交換業は①法定通貨と仮想通貨を交換する事業 ②ビットコインなど主要な仮想通貨とマイナーな仮想通貨を交換する事業 に必要となる。また取り扱える仮想通貨も厳密に決まっている。 これはユーザーの資産を預かる企業が適切な規制下で内部統制や資産管理を行うこと、投資家保護が立法趣旨かと思う。 それ自体は概ね同意なのだが、「ウォレットアプリを提供して、片方のユーザがビットコインを送ると、受け取ったユーザーは円とかそのほか好きな通貨として受け取れる」というような機能をつけるにも交換業が必要になる。 また、DEXと呼ばれるサービスを提供するのもアウトになると思われる。DEXとはユーザーの資産を預からず、ブラウザに秘密鍵を持たせた状態で通信させる取引所である。詳しくは次の記事を参照。

zoom-blc.com

エコシステムとしてこのようなサービスがどんどん出てきて手数料やユーザビリティの面で競争するのが望ましいと思う。

アイテムやキャラクターがトークン化されたゲームもグレーである。ゲームアイテムであってもトークンには変わりないのだから定義としてはしょうがないのだけど、法律がこういうものの規制まで念頭にしていたのかは不明である。

ちなみに「海外からの旅行客に対して日本の個人がツアーコンダクターとなって、案内をしたり運転したり買い物をしてやって、その日の支払いをビットコインで清算するサービス」とか面白いのではと思ったけど、これをやるにはツアーコンダクターたる個人に仮想通貨交換業をとってもらう必要がある。

2. 仮想通貨交換業をとるハードルが高くなっている

たしかに無許可の取引所が乱立したらそれはそれで問題が生じるのは容易に想像できる。それならちゃんと交換業をとればいいよねという話だけど、今後ベンチャーが交換業をとるのは実質不可能だと思われる。 噂ベースだが金融庁の担当者が一人とか数名とかとにかく少ないらしい。審査項目の内部統制も、上場企業レベルのものが求められると聞く。 職業紹介業とか飲食店の営業許可くらいカジュアルにとれればいいと思うのだけど。

3. ICOができない

上述の通り取り扱える仮想通貨がきまっているからICOをするには交換業を取得し新規発行する通貨について申請する必要がある。つまり資金需要があるプロジェクトが主体となるのではなく、今後は適当なICOプラットフォーム事業者に上場申請するような形式になるかと予想できる(そしてそれはSBIやテックビューロがその地位を狙っている)。 ICOはアメリカでもダメ?なはずだけど、ばんばん有望なプロジェクトがICOしている。英語なら日本人もやっていいのかというと、そのへんも微妙そうである。

4. 業界団体が利権化しつつある

既存の仮想通貨交換業者が業界団体を作っているが、動向を見てるとどうも規制を強める方向に動いているようである。 新規に交換業をとれるのはLINEとかメルカリとか、あるいはゴールドマンサックスとか、彼らが逆らえないような勢力だけで、そのへんのスタートアップは握りつぶされるだろう。

5. 税金

これはよく言われることだから簡単に済ますけど、増えたビットコインを利確する(円転する)、別の仮想通貨に変える、商品やサービスの対価に使用する時点で購入時の価格と時価の差で課税される。この「別の仮想通貨に変える」ときの課税が厄介で、せっかくビットコイン長者が生まれても別のクリプトに資金が還流していかない。 ちなみに商品やサービスの対価に使用する点だけど、確かドイツでは非課税らしい。

事業化できる分野

今後ビットコインブロックチェーンを事業にするなら、

ブロックチェーンエンジニアの教育コンテンツ・研修・派遣 ②ブロックチェーンの分析サービス ③税金の計算 ④仮想通貨のメディア ⑤謎なブロックチェーンの実証実験 ⑥中央集権サービスへの仮想通貨の組み込み(広告みるとビットコインもらえるとか)

あたりは問題なさそうだが、真にブロックチェーンの思想を体現するようなサービスで革新を起こすのは難しそう。まぁでも国民全員でBTCをガチホしてるだけでいいのかもね。